「何だそれ」
開口一番に影虎が言うから、崇は自信満々に胸を張った。
「鳩饅頭なんだぜ!」
「おもっ」
手渡せば、ずっしりみっしり餡子の詰まった鳩饅頭の重量に、影虎が驚きの声を上げる。
「オレが作ったんだぜ」
「へえ。つか、でっかいな」
「ご家族皆さまでお召し上がりくださいませ」
手のひらに乗せた鳩饅頭をしげしげ見やりつつ、影虎は「へえ」だの「ほう」だの、いまいち気の入っていない感嘆の声を上げている。
もっと褒めてほしい崇としては、何だか少し物足りない。
「なあ影虎の旦那。オレに何か言うこと無いんだぜ?」
「んー? あ、髪切った?」
「切ってないんだぜー……」
あからさまにがっかりした態度を示せば、影虎は意地悪く喉で笑った。
「ちゃんと美味そうだよ。切って良いか?」
「旦那は微妙に意地悪なんだぜ……」
「んな事ねえよ。俺超優しいぜ?」
どうだか、と崇は思ったが口には出さず、じっとりとした視線を送るに留めておいた。
屯所の台所に移動する。
「えーと、四等分で良いか。崇、そのへんにお茶っ葉あるから入れといて」
「了解なんだぜ」
四等分四等分と呟きつつ、影虎は包丁をどう入れるか悩んでいるようだった。
「旦那ー。このほうじ茶で良いんだぜ?」
「そこらのならどれでも良いよ」
適当な分量の茶葉を急須に入れつつ、崇はその様子を見守っていた。
鼻歌まじりに、影虎は鳩饅頭に包丁を入れた。頭部から尾にかけて、ゆっくりと包丁で切っていく。
崇は、何というか、複雑な気持ちだった。
自分で切るなり割るなりするのは良い。だが、人の手によってこうして鳩饅頭が分断されていくのを見るのは、何というか、何だ。複雑だ。
「……旦那」
「んー?」
縦方向に真っ二つになった鳩饅頭の頭部を押さえ、影虎は鳩饅頭の腹のあたりに、ずかっと包丁を下ろした。
「……っ旦那の外道!」
「何だよいきなり」
こんな丸っこくて可愛い鳩饅頭を、崇の作った鳩饅頭を、こんな、四等分に、見事に綺麗に四等分にしてくれさりおってこの主夫めが!
「旦那には人の心が無いんだぜ!?」
「刃の心と書きまして忍びと読みます」
「どや顔腹立つ!」
確かに影虎は忍びなのだが。
四等分された鳩饅頭をひょいひょいと皿に移し、影虎は盆に乗せた。
「ほれ、湯のみも」
「うう……。こし餡のしっとりとしたなめらかな舌触りと、皮のほんのりとした甘さをお楽しみください……」
湯のみを盆に乗せつつ、隆は涙を堪えて鳩饅頭を褒め称えた。
急須にお湯を注げば、ほうじ茶の良い香りが漂ってくる。お茶の香ばしさと鳩饅頭の甘さが実に合いそうだ。
いや、合う。だって崇の作った鳩饅頭だ。崇の作った、今は四等分にされてしまった鳩饅頭だ。
急須を提げて影虎の後ろを歩みつつ、崇は前を行く背に恨みがましい視線を送った。
美味いと褒めなければ、鳩饅頭の頭部のみを毎日屯所の玄関口に供えてやるんだぜ。