紗雪が私塾の学友と、帰途を共にしていた時の事だ。
「あ、格好良い人見っけ」
はしゃいだ声で友人が言った。格好良い人とな? と自他共に認める面食いの紗雪は、勇んで友人の指差す方を見やる。
そして、がっかりした。
「ね、格好良いよね」
「……そうね」
思いっきり知り合いだったからだ。
きゃっきゃとはしゃぐ友人の視線の先には、青年一人と少年一人。乾壱班の制服に身を包んでいるが、その実、彼らは壱班ではなく弐班の者だ。
二人は額をつき合わせて、何やら相談していた。手元には人相書きみたいなものがあるから、きっと人を探しているのだろう。
まあ、確かに二人とも顔はそこそこに格好良いのだろう。紗雪の好みではないが。
一人はすらりと高い背に、ところどころに橙のまじった栗皮色の髪。垂れ気味の目は桃色で、見るからに甘やかな雰囲気を纏っている。色男、という言葉が実によく似合っていた。
もう一人は、背こそはあまり高くはないが、ぴんと伸びた背筋のおかげで、その低さを感じさせない。癖のない髪は一見黒だが、光の透ける具合によっては藍にも濃紫にも見えた。切れ長の一重瞼は鋭く、硬質で近寄りがたい凛とした佇まいをしていた。
うん。特徴だけ並べれば確かに二人とも格好良い感じがする。
が、二人を知る身としては何となくその格好良い感じが腹立つというか、胡散臭いというか、癪だというか。
「ねね、坂崎さんどっちが好み?」
「えー……」
どっちもそういう対象じゃない。
だってこないだその人たち、すごく真剣に脚と尻の話してたし。寝てる猫の腹に蜜柑積んでたし。そんでその後満足して寝たそれの腹に、蜜柑積んで遊んでたし。とりあえず馬鹿だし。
しかし制服に身を包み、真剣な顔をしていたら二人ともそんな馬鹿には見えない。制服効果ってすごい。
乾壱班の制服の意匠は、なかなかのものだと紗雪は思う。これを纏えば、どんな馬鹿だって三割増しに良く見える。
濃灰色の
それに付け加え、冬の今は黒の外套も羽織っている。この外套の意匠がまた、誰でも三割増しに見せてくれる意匠である。
だから、風にのって聞こえてきた二人の会話が「いやでもやはりマグロは」とか「そん時は針で」とかでも格好良く見える。何の話だ。
「あ、行っちゃった。残念」
二人は軽く拳を合わせてから、お互いに背を向けて歩き出した。紗雪は何となくほっとする。このままでは学友の憧れというか、幻想というかを叩き壊してしまいそうだったので。
制服の三割増し効果ってすごいと、紗雪は改めて思った。
何なんだ、マグロと針って。