「お邪魔しまーす」
門扉に取り付けられた鈴がカラカラと鳴る。
久々に紗雪は乾弐班を訪れてみた。美味い菓子を見つけたのだ。皆で分けようと思った。
「はいはいはーいどちら様ー」
いつも通り、左右非対称の足音と共に気の抜けた声がやってくる。
「おー紗雪ちゃん。久しぶりだにん」
久しぶり影虎さん。
そう言おうとしたのに、何やら珍妙な台詞が聞こえて、紗雪は思いっきり眉を顰めた。
「……にん?」
「いやあ俺ってさ、何ちゃって忍だからにん? やっぱ忍っていやあ語尾にんだろって事になってさあ、ちょっと強化しようと思ってにん」
「……そう」
けらけらと楽しげに笑う影虎に、紗雪は手土産の羊羹を渡した。
「お、ありがとだにん。俺お茶入れてくるから先行っといてくれだにん」
「……うん分かった……」
何だか妙に疲れる。紗雪は長い長い溜息をついて、食堂兼会議室の襖を開いた。
「おや紗雪。お久しぶりでございますな」
「…………ございますな?」
寝そべって黒豆をじゃらしていた紫呉が、顔を上げるなり何やら可笑しげな事を口走る。
「いえ、やはり僕と言えば特徴の一つに敬語といったものが上げられると思いましてな。 そこで少々強化致そうと思った次第でございますれば」
「…………そう」
疲れる。
「で? 須桜は何で落ち込んでるの?」
部屋の隅で暗い空気を背負い、須桜は膝を抱え丸まっている。
須桜はゆっくりと振り返り、どんよりとした視線を投げかけてきた。
「……あたしね、何も強化できる所が無いの……」
「いや、あんたは何も強化しなくて良いわよ。そのままでも充分……充分魅力的よ」
充分変態よ、と言おうとしたのだが、何やら落ち込んでいる友人相手にそれはひどい仕打ちだろうと思い、途中で言い直した。
須桜は紗雪の言葉を受け、ぱっと顔を輝かせる。その手に何かを持っていた。
「……須桜、あんたそれ何持ってんの?」
「え、紫呉の足袋」
「片方無いと思ったらお前かあああ!」
「やだ紫呉、ちょ、紗雪が見てる」
「頬を染めるな!」
「紫呉、ほら、敬語。敬語強化忘れてる。強化どころか敬語そのものを忘れてる」
「黙れ! 良いから返せ!」
「おーい何騒いでんだにん? 埃立つからあんま暴れんなよにん」
お盆を抱え、足で襖を開けた影虎が呆れ声で言う。
頭を抱えて嘆息する紗雪の隣で、黒豆がくわりと大きな欠伸をした。
門扉に取り付けられた鈴がカラカラと鳴る。
久々に紗雪は乾弐班を訪れてみた。美味い菓子を見つけたのだ。皆で分けようと思った。
「はいはいはーいどちら様ー」
いつも通り、左右非対称の足音と共に気の抜けた声がやってくる。
「おー紗雪ちゃん。久しぶりだにん」
久しぶり影虎さん。
そう言おうとしたのに、何やら珍妙な台詞が聞こえて、紗雪は思いっきり眉を顰めた。
「……にん?」
「いやあ俺ってさ、何ちゃって忍だからにん? やっぱ忍っていやあ語尾にんだろって事になってさあ、ちょっと強化しようと思ってにん」
「……そう」
けらけらと楽しげに笑う影虎に、紗雪は手土産の羊羹を渡した。
「お、ありがとだにん。俺お茶入れてくるから先行っといてくれだにん」
「……うん分かった……」
何だか妙に疲れる。紗雪は長い長い溜息をついて、食堂兼会議室の襖を開いた。
「おや紗雪。お久しぶりでございますな」
「…………ございますな?」
寝そべって黒豆をじゃらしていた紫呉が、顔を上げるなり何やら可笑しげな事を口走る。
「いえ、やはり僕と言えば特徴の一つに敬語といったものが上げられると思いましてな。 そこで少々強化致そうと思った次第でございますれば」
「…………そう」
疲れる。
「で? 須桜は何で落ち込んでるの?」
部屋の隅で暗い空気を背負い、須桜は膝を抱え丸まっている。
須桜はゆっくりと振り返り、どんよりとした視線を投げかけてきた。
「……あたしね、何も強化できる所が無いの……」
「いや、あんたは何も強化しなくて良いわよ。そのままでも充分……充分魅力的よ」
充分変態よ、と言おうとしたのだが、何やら落ち込んでいる友人相手にそれはひどい仕打ちだろうと思い、途中で言い直した。
須桜は紗雪の言葉を受け、ぱっと顔を輝かせる。その手に何かを持っていた。
「……須桜、あんたそれ何持ってんの?」
「え、紫呉の足袋」
「片方無いと思ったらお前かあああ!」
「やだ紫呉、ちょ、紗雪が見てる」
「頬を染めるな!」
「紫呉、ほら、敬語。敬語強化忘れてる。強化どころか敬語そのものを忘れてる」
「黙れ! 良いから返せ!」
「おーい何騒いでんだにん? 埃立つからあんま暴れんなよにん」
お盆を抱え、足で襖を開けた影虎が呆れ声で言う。
頭を抱えて嘆息する紗雪の隣で、黒豆がくわりと大きな欠伸をした。