何かいる。
朝、戸を開けた雪斗は、それとばっちり目があってしまい、固まった。
何なんだろう、これは。
雪だるま? うん、たぶん雪だるま? だ。何かやたら目ばっかりが写実的な雪だるま? だ。
よく言えば芸術的で前衛的なそれが、じっとこちらを見ている。
昨日は雪が降っていた。最初はちらちらと舞っているだけの雪だったが、次第に雪の粒は大きくなり、果ては里を白く染めるほどになった。
乾地方に積もるほどの雪が降る事は珍しい。これじゃ明日の見世は開けそうにもないな、と煩わしく思っていた雪斗だが、滅多に見ることのない銀世界に心のどこかが弾むような気分でもあった。
雪だるま? を見つけるまでは。
身を切るような冷たい風が体を撫ぜていく。
が、雪斗は雪だるま? に射すくめられたようにその場に立ち尽くしていた。
何だこれは。何の呪いだ。何の嫌がらせだ。
雪だるま? は一体だけではない。大小合わせて、四体ある。ついでに雪うさぎ? のようなものも二体ある。
そのどれもが、こっちを見ている。
<●><●>
こっち見んな。
それらは、まるで吸い込まれるような深い目をしていた。ずっと見つめ続けていたら、自分の心がどこか遠いところへ連れ去られていくような心地がする。
だが視線を逸らせない。
ふいに、軒先から溶けた雪の雫が滴り落ちた。ポツ、と音を立て、雪だるま? の頭部を穿ち始める。
昇り始めた太陽が、雪を溶かし始めているのだった。
太陽は容赦なく雪だるま? たちも溶かし始める。次第に輪郭も朧になり、やがてずるりと頭部が地面に崩れおちた。
無残に溶け、ひび割れてしまった雪だるま? の頭部だが、それでもなお深い目はこちらを見ていた。
思わず雪斗は息を飲んだ。
何の呪いだこれは。
「……って事があったんだよ」
「……へえ」
翌日、紫呉が雪斗の宅を訪ね来た。
いつもの通りに一応は「帰れ」「鬱陶しい」という
「あーもう、まだあいつらこっち見てる気ぃする」
雪はもうほぼ溶けて、日陰に少しばかりが残るくらいだ。雪だるま? たちも跡形もなく姿を消しているのだが、それでもまだ何となくあの視線を感じる気がするのだ。
「つーか、何でお前今日オレと目ぇ合わさねえんだよ」
「……いえ別にそんな事は」
すい、と紫呉は常の無表情のまま目を逸らした。
疑問に思いつつも、雪斗はまあ良いかと思い直してでがらしを啜った。