まあその着眼点は良いと思いますよ。動物を模す、というのは中々に良いと思います。女性や子供は動物が好きでしょうからね。
ですがこの大きさはいただけないと私は思います。大きすぎます。一人では到底食しきれないでしょう。
分けて食べるにしても、饅頭の皮が剥がれてしまって、食欲を減退させてしまいます。饅頭をきれいに切るのは難しいでしょうからね。
「洋うぜえ」
「崇!?」
せっかく新作の鳩饅頭を持ってきてやったのに、つらつらと鬱陶しい。
崇は洋の手から鳩饅頭を奪い返し、そっぽを向いた。
三つ上のこの男と自分は、いわゆる幼馴染という関係なのだろう。
元赤官長であった自分の父と、現赤官長である洋(と莉功)の父は、長年の付き合いであるらしい。その繋がりでか、橘家の兄弟とは小さな頃から交流が有った。
己の父と橘家の父には何やら確執のようなものがあるらしいのだが、父は言葉を濁してしまうので詳しいことは知らない。とりあえずは「仲はあんまり良くないなあ」とだけ言っていた。
その息子である自分達もまた「仲はあんまし良くないんだぜ」という関係だ。
同じく鳥獣隊に属しているが、何と言うか、反りが合わない。
というよりむしろこの男と反りが合う人間はいるのだろうかと崇は思う。
「全く……。どうしてあなたはいつも私に厳しいのですか。そんなに私がお嫌いですか?」
「別に嫌いじゃないけど鬱陶しいんだぜ」
「少しは歯に衣を着せなさい!」
「着せる衣がもったいないんだぜ」
「崇!?」
まず、いちいちねちねちとした言い方が気に入らない。もっとすっぱりはっきり言えば良いのに。
それに結論までが回りくどい。もっとすっぱりはっきり以下同文。
別に嫌いなわけではないのだが、どうにも気に入らない。反射的に、ついつい突っかかるような物言いをしてしまう。
「じゃあ洋は鳩饅頭食いたくないんだぜ?」
「そうは申しておりませんよ。あなたの作る菓子は中々のものだと思っておりますからね。まあ父君には到底まだまだ及びませんが……。ですがそれも努力次第だと私は思っておりますよ」
「洋うぜえ」
「崇!?」
「やっぱり洋には食わせてやんないんだぜ」
待ちなさい、という声が聞こえたが崇は無視して橘家を後にした。
全く、少しは素直に褒めれば良いのに。せっかくわざわざ自慢しにきたのだから、年長者としてその気持ちを汲めば良いのに。
ああ、でも。
(中々のもの)
いちいち回りくどい洋にしては、分かりやすい褒め言葉だろうか。
崇は頬が緩むのを感じていた。
いつか、洋から美味いという言葉を引き出してみせる。素直にそんな事を言う男ではないと知っているからこそ、言わせてみたいのだ。
とりあえず帰ったら鳩饅頭の改良をしてみよう。白餡もなかなかに良いかもしれない。
鼻歌を歌いながら、崇は帰途についた。