家族哲学
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終
居酒屋の奥で、男は今日の稼ぎを勘定していた。
馴染みにしていた上客が最近来ない。以前よりも売上は減っていた。
田中はいったいどうしたのだろうか。連絡を取ろうにも連絡先を知らないし、それにわざわざ連絡をしてまで繋ぎ止めたいとも思わなかった。まあ、上客ではあったのだが。
男は立ち上がり、自分のねぐらを目指した。
昼間の雨に地面はぬかるんでいる。所々に水溜りがあった。それを踏まぬよう、避けて歩く。
今日は比較的人間が少ない。昼間降った雨のせいだろう。
行き交う人々の中、見知った顔を見つけ、男は片手をあげた。
蜜色の髪をした少年だった。中途に伸びた髪を適当に結っている。顔の左半分は髪に覆われていて見えない。
彼は男に気付くと、紅緋の瞳に笑みを浮かべた。
「売上はどうだい?」
「ぼちぼちだな。上客が最近来ないもんだから。強盗に襲われたとか何とか噂は聞くんだが」
彼は風呂敷鼓を男に渡した。その中身は聞かずとも分かる。男の商品だ。
男はいつも彼から大麻を買っていた。男はいわゆる仲買をして食いつないでいる。
だが、彼がいったい何者なのかは知らなかった。
彼は十五か、六かだ。勝手にどこぞの破天の下っ端か何かだと思っているが、それを確認した事はない。
「……なあ、そういやお前さんどこの組のもんだ?」
ふと、気になった。
彼は何も言わない。
月の映りこんだ水溜りを爪先でぱしゃりと蹴り、彼は薄く笑った。
- 【了】
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