ねじれた王子
一つの月と二つの太陽が昇る我が生国。
二十番目の王は二十人の女を妻にして、二十の子供を生ませました。
二十番目に娶った女が産んだ、我が王子。我が乳兄弟。
二十番目の王は二十番目の息子を愛さずに、あなたは愛されない事に愛を見つけようとしましたね。
二十番目の王があなたを叱責するたびに、あなたはきれいに微笑んで、ちちうえはわたしをあいしてくださっているのだとよろこびました。
我が王子。我が乳兄弟。あなたが二十になった時、あなたは父王と同じように二十人の女を娶りました。
あなたが娶った二十人の女たちはあなたを愛そうとしましたが、あなたはそれを理解できずにいましたね。
だってあなたにとって愛されることは、あなたをなじることだから。あなたを打つことだから。あなたを苦しめることだから。父王があなたにするように。
我が王子。我が乳兄弟。あなたはとてもかわいそうなお方です。
あなたは娶った二十人の女達に、私を愛しているのだろうと何度も確かめていらっしゃいましたね。
私を愛しているのならば、と、あなたは女達に父王と同じようにあなたを罵らせて。父王と同じようにあなたに暴力をふるわせて。そのたびあなたはよろこびに打ち震えていらっしゃいました。
我が王子。我が乳兄弟。本当はあなただって知っていらしたのでしょう。
あなたが娶った二十人の女達の心が、だんだんあなたから離れていっている事を。
あなたはそれすら、よろこびに変えましたね。女達があなたの命令ではなくあなたを罵るたびに、あなたの命令ではなくあなたを打つたびに、あなたはやはりきれいに微笑んでいましたね。
ああわたしはこんなにあいされている。
そう言って、とてもきれいに笑っていらっしゃいましたね。
我が王子。我が乳兄弟。父王が病に伏している今、あなたは何を思っているのでしょうか。
あなたを罵る父王の声はもうありません。あなたを打つ父王の手はもう上がりません。
あなたは哀しんでいらっしゃるのでしょうか。それともよろこんでいらっしゃるのでしょうか。
我が王子。我が乳兄弟。あなたはきっとよろこんでいらっしゃるのでしょうね。あなたはすべてをよろこびに変えられる、美しくねじれた王子だから。
二十番目の王を地界へ引きずる百の死神すらも、きっとあなたは微笑んで、よろこびながら迎え入れるのでしょう。
我が王子。我が乳兄弟。かなしむ事を知らないあなた。
あなたはいったい、どんな顔で泣くのでしょうね。
あなたを愛さなかった二十番目の王が死せば、あなたは泣くのでしょうか。
いいえ、きっとあなたはきれいに笑うのでしょう。父王の暴力から逃れられた事にではなく、父王を慕うあなたから父王を奪った百の死神。その百の死神があなたに与えた父王の死という最大の暴力。それすらきっと、百の死神は私をあいしているのだと、あなたはよろこびに変え、そしてきれいに笑うのでしょう。
我が王子。我が乳兄弟。あなたはかなしみを知って良いのです。
かなしみを知っても、良いのですよ。
あなたの寵を争って、あなたが娶った二十の女達が殺し合いでもすれば、あなたはかなしんでくれるのでしょうか。
次の王位を争って、あなたの前に生まれた十九人の兄と姉がいなくなれば、あなたはかなしんでくれるのでしょうか。
あなたを詰って打って責めることがあなたを愛することならば、この国に住まうすべての人が消えて、あなたを苦しめる人がいなくなってしまったなら、あなたはかなしんでくれるのでしょうか。
我が王子。我が乳兄弟。ねじれ歪んだ我が光。それでもきっと、あなたはきれいに笑うのでしょう。
一つの月と二つの太陽が昇るこの国の、すべての人とすべての神が、私をあいしてくれたのだと。
誰もいないからっぽの国でひとり。
美しくねじれた顔で。