銀色と黄金宮 終
終
テーブルを拭きながら、蜜蜂はみづ穂が走り去った雑踏を見やる。
「げに面白きかな人の世は。……なんつって」
人の世、より人の子、の方が良かったかと首を捻る。
本当、人というものは見ていて飽きない。理解できない時もあれば、興を惹かれる時もある。愛しくて仕方がない時もあれば、消し去りたいと思うほどに憎い時もある。
(我が半身殿も、引き篭もってないで出てくりゃあ良いのにねぇ)
人嫌いを公言する弟に、それは無理な話か。
(ま、久々に会いにいこうかね)
家族サービス家族サービスー、と即興の歌を口ずさみ、蜜蜂はみづ穂が置いていった新聞を小脇に抱える。
さて今回はどんな格好で行ってやろうか。
前回は今の姿で行った。その前は獣の姿で行った。その前は女人の姿をしてみた。その前はどうだっただろうか。
まあ何にせよ、人臭いと罵られることに変わりは無いのだが。
どうせなら、劇的な再開シーンを設けたい。どの姿が一番嫌がってくれるだろうか。
「あ、いらっしゃいませー」
常連客に笑顔を振りまき、蜜蜂は店内へとい向かう。
注文を聞き、料理をする片手間にその女性の夫に対する不満を聞く。
女性の連れが苦笑しながら謝る。それに首を振り、相槌を打つ。
ああ、非常に愉快だ。
(すばらしきかな、人の世は)
なんつって。
- 【 完 】
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