リア充爆発しろ
っつーかマジでリア充爆発しろ。
そこいらでいちゃこきやがってちくしょー。
ここは公道ですよー、みんなの道ですよー、いちゃこくなら然るべき場所に行けよコノヤロー。
とか、相変わらずの童貞が愚痴ってみます。
いやでもほんとにさ、周り気にせずいちゃこくアホは公害だと思うんだよおれは。
あと何でドラッグストアはさ、こういうイベント時期は合体推奨すんの? 何でレジの側にゴム置くの?
ついで買いとかしねえよどちくしょー。
ドラッグストアに目薬を買いに行った帰りのおれは内心穏やかでなかった。
あーもー早く帰って(って言っても久保家で働いてた途中の休憩時間に抜けてきたから、帰る先は久保家です)煙草吸いたい。
や、きゃっきゃしてる女の子は可愛いと思うよ?
そわそわしてる男どもも、覚え有る感じで微笑ましいと思うよ?
でもカップルは駄目だ、お前らは許さねえ。
って、さっきまでは思ってたんだよ。
爆発すんのはリア充カップルだけで良いってさ。
でも前言撤回。
女子も男子もお前らみんな爆発しちまえ。
「何だ」
「べっつにー」
レジカウンターには一基がいる。
その一基の側には、大量のチョコレート。
あーまあねえ、モテキングですもんねえ一基くんはー。
今更だよ知ってる。大学四年間ずっとこいつはこんなんだった。
大量にもらっては誰にもお返しなんてしなくて、そのくせ毎年もててもててああああ腹立つ。
爆発しろ、と呟いたら、荒れてるな、と淡々とした返事が返ってきた。お前のせいだよばーか。
「そうだ、洋平。これ、多恵子から」
「マジで!?」
カウンターのチョコの山から一つだけよけてあったチョコを取って、一基はおれに渡してくれた。
あー嬉しいー。義理でも良いんだよこういうのは。義理でも用意してくれる気持ちが嬉しい。
だって、おれのこと忘れてなかったんだなー、とか。
おれの存在覚えててくれたんだなー、とか。
そういう気持ちになるじゃん。
「あー、多恵子ちゃんマジで神。嬉しいわー」
「居酒屋の方ではもらわないのか?」
「……一基」
「何だ」
「お前はおれを怒らせた」
もらえてませんよ。
お前な、居酒屋バイトのカップル成立率どんだけだと思ってんだ。
義理なんて用意してる子いねえよ。みんな本命用意してんだよ。
そんでもらえてないおれはつまりあーくそ、ほんとにもうリア充爆発しろ。
「悪い」
と、まったく悪びれた様子もなく、一基はカウンターのチョコを、足元の紙袋に移動させた。
……ほんっとむかつくわー。
こうなること予測して紙袋用意してるあたりがマジ腹立つ。
あ、有名なチョコの店の袋だから女の子が持ってきたやつなのかな。
まあ慣れっこなんだろうけどさ、こいつからしたら。おれも一生に一度は抱えきれないくらいのチョコもらいたいですよ。
「それは?」
「ああ……」
カウンターには一個チュッパチャップスが残されていた。チョコの味のやつ。
「ほれ」
「あ?」
「メリーバレンタイン」
一基は表情一つ変えず、それをおれに差し出してくる。
「お前がやかましいだろうと思ってな。買っておいた」
「……腹っ立つわー、お前マジで」
余計にみじめだっつーの、ばーか。
とりあえずは受け取る。とてもとても癪でした。
何か釈然としない気持ちでもやもやしてたら、尻のポケットに入れてた携帯が震えた。
でぃあ洋平くん
メリーバレンタイン!
きっと洋平くんが荒んでるだろうと思うので、メールしてみました
おうちのポストにサプライズ仕込んできたからね!
楽しみにしててね!!
絵文字がふんだんに使われた、理絵からのメール。
つか、先にメールしたらサプライズも何もないだろお前。
つか、クリスマスん時も思ったけどお前おれのアドレス誰に聞いたんだよ。
とりあえず、返事は保留。ぺこんと音を立てておれは携帯をたたむ。
まあ良いや。とにかく休憩の続きだ。
おれは裏口に向かった。
自販機のココアにすら何かむかっとしちゃうおれは末期だ。
でも、ま、さっきよかちょっとマシな気分かな。
煙草の代わりにチュッパを口に放り込んで、理絵に返すメールの文面を考えてたらだ。
店の方から切羽詰った感じの、一生懸命な感じの、女の子の声が聞こえてきた。
以下、店での会話要約。
あの、これもらってください!
いや、受け取らないことにしてるんで
ごめんなさい迷惑かけて、でも、でも、……
分かりました、じゃあ、受け取るだけで良ければ
ありがとうございます!
要約終了。
やっぱりリア充爆発しろ。