おれはリア充になりたい
おれだってリア充になりたいですよ。
けど現状、ノットリア充なわけで。
まあ何をもってリア充って言えば良いのか、おれ自身よくわかってないけどさ。
でも何だ。
相変わらず彼女もいないし、相変わらず童貞なおれはリア充じゃないんじゃねえの? って思うわけだ。
仕事終えて、現在久保家の一基の部屋。
今日は終わるの遅くなったし、帰んのめんどくなったから泊めさせてもらうことにした。
部屋の主は、主のノーパソ占拠してるおれなんて特に気にせず、ベッドで仰向けになって雑誌読んでる。おれも後で借りよう。
おれはさっきから通販サイトをごりごり見ていた。
だってほら、もうそろそろホワイトデイなわけだし。
多恵子ちゃんから一応義理とはいえチョコ貰ったんだしさ、やっぱお返ししなきゃっしょ。
んで、仮にも成人男子としては見栄もあるわけだ。
きゃー洋平くんセンス良いー的な感じで、高二の女の子が喜んでくれる物をお返ししたいわけだ。
んー、どうしようかねえ。
去年は生マシュマロあげた。生なんちゃらってお菓子流行ってたし喜んでくれた。
一昨年は……何だっけ。ああ、マカロンあげた。確か。
その前はそこらへんのコンビニで買ったチョコあげた。そん時は見栄とか気にしてなかったし。
「なー、何が良いと思うー?」
後ろの一基に聞いてみるけど、一基は気の無い様子で「何でも良いだろ」とか言う。冷たいよお前。
「今年も生系でいくかなあ」
まだ流行は続いてるし、生カステラとか色々あるっぽい。うまそう。おれも自分用に買おっかな。
「なあ洋平」
「あ?」
「お前、多恵子に気があるのか?」
体を起こして、一基が真剣な声で言った。
「は?」
「いや、やけに真面目に考えてるだろ」
どうなんだ、と一基が詰め寄る。
「いやいや無い無い」
真剣な一基がおかしくて、おれは笑い飛ばした。
だって高二とか若すぎっしょ。
それに一基の妹っていうイメージが強すぎて、そういう感じには見れない。
や、多恵子ちゃんは可愛いと思うよ?
でもそういうんじゃないんだよ。
「単におれの見栄だよ、見栄見栄」
言ってて悲しいような気もするけど、まあ本音だ。
喜んでほしいってのも、そりゃ本音だけどさ。
一基はどことなくほっとした感じで、そうかと頷く。
やっぱお兄ちゃんとしては、妹に変な虫ついてほしくないのかね?
おれは一人っ子だから、そういう感覚よくわからんけど。
よし、生カステラにしよう。
おれは必要事項を打ち込んだ。一基のノーパソだけど、おれのアカウントでログインしてるのでそのへんは平気。
「理絵も同じので良いか」
あと義母さんも。
義母さんは、何かおしゃれな感じのオレンジの皮にチョコかけたやつくれた。
あと何でか、ココアを大量に送ってくれた。そんなに飲まんよ。好きだけど。
やたら貰ってしまったので、何個かは久保家に進呈。
今も飲んでるけど、最近ちょっと食傷気味だ。好きだけど。
理絵は手作りのやつくれた。トリュフと、板チョコにメッセージ書いたやつ。
『だいすき!』とか、不覚にも可愛いと思ってしまった。
でもやっぱ、理絵もそういうアレな対象じゃないしね。
だって中二だし。ロリ趣味はございません。
ロリの至高は二次元だと、半端なロリ信者が言ってみます。
しかし理絵だよ。
お前いつ合鍵作ったの?
何で普通におれん家いんの?
『おかえりなさい』とかって出てきた時は、そりゃもうびびった。
『ご飯にする? お風呂にする? それともわたし?』
とか言われた時は、反射的にお前帰れっつってた。裸エプロンじゃなかったのに心底安心した。
洋平くん冷たいよー、じゃねえ。
中二といえど不法侵入だぞお前。
ほんっと疲れるわー。
ん。
今思ったけど、この状況っていわゆる一つのリア充じゃね?
おれ好みの女子に好かれて、家帰ったらそいつがいて。
んで『ご飯にする以下略』とか聞かれて、ベッド潜り込んできたりして(帰れって言ってもきかなかったんだよ)。
まさしく『これ何てエロゲ?』な状況じゃねえの?
んん、いやでも何か違う。
おれの求めるリア充はこういう感じじゃない。
何かもっと、こう、何だ。
うん、身の危険を感じたりしない感じで、バレンタインにチョコ大量に渡されて、いや、受け取らないことにしてるんでっつって断って、それでもやっぱ大量に貰って、お前食うかとかってお裾分けしてきて、お返しに頭悩ませたりしない感じだ。
おい一基、お前だよお前。
暢気にココア飲んでんじゃねえよ。
あー、明日家に帰ったら、また理絵がいる気がする。
疲れるわー、と思いつつ、この状況に慣れてきてるおれが嫌だ。