天使の言い分 13
起きたら、すぐ側に理絵の顔があった。
んおお!? 何で!? 何が起きた!?
勢い良く体を起こす。まだ上手く回ってない頭がガンガンしてる。
……あー、思い出した。おれのばかちんこ……。
昨日のあれやこれやを思い出す。うあー、めちゃくちゃ恥ずかしいー。
ああいうおせっきょーじみた事はおれのキャラじゃないじゃん。つか、理絵に言ったってどうしようもないじゃん。
いやいやそういうんじゃなくてさ、それ以前にさ、うあー、布団までちゃんとかけてくれて……。
いやマジごめん。押し倒しといてアレはないわ。マジでない。おれ最低。せめて謝れよ。
うん、良し。理絵が起きたらまず謝る。そんで礼を言う。布団ありがとう。
んでもっかい謝る。いらいらをぶつけました。ごめんなさい。
つか、一緒に寝てたの? 何で? ベッド空いてんじゃんか。女の子が床で寝てる図とか、何かそれだけで罪悪感的なんだけど。
今からでもベッドに運んでやっかな。ああでも、いっくら理絵が軽いとしても四十キロはあるよな……。
ほぼ毎日酒瓶やら何やら運んで慣れてるとはいっても、四十キロ越えはちょいときつい。それで一基の親父さん腰いわしちゃったし。あなどれんよ、酒瓶。
寝顔を眺めつつ首を捻っていたら、理絵がむにむにと何か言った。と思ったら目を開けて、ぼんやりとした顔でおれを見上げてくる。
んん、謝るって決めてたけどもさ、いざ理絵が目を覚ましたら、気恥ずかしさが勝って言い出しづらい。
ええと、ごめんなさい。昨日は……ん? 今日? まあどっちでも良いや。まあとにかくごめんなさい。
よし、エア謝罪は完璧だ。後は口に出すだけだ。
しばらくして、ちょっとだけしゃっきりした顔つきになった理絵が、おれの方ににじり寄ってくる。
よし謝るぞ。
「ごめんなさい洋平くん」
んお?
「わたし、調子にのってた。ごめんね」
ぺこん。
頭を下げた理絵に、おれはぽかんとしちゃいました。
や、謝るのはおれだと思うんだけど。つか、お前が調子にのってるとか今更だと思うんだけど。
だって出会い頭からしていきなり天使とか言い出すし。そんで人ん家に居ついちゃうし。ノーブラノーパンで寝てたりするし。
「あ、何で笑うの」
はは、何でってそりゃ、なあ?
ひとしきり笑って、おれは腑に落ちないって顔をしてる理絵の頭をぽんと叩いた。
「悪い。昨日八つ当たりした。ごめん」
よし言えた。エア謝罪の文面からは随分言葉が減っちゃったけど。
言ってすっきりしたらいきなり、何か恥ずかしくなってきた。あー、苦手だわこういうのー。
おれは立ち上がって着替えを取りに行った。シャワー浴びたいってのは建前で、この空気から逃げたかったってのが本音。
「あ、待って。わたしお腹すいちゃった。おフロ入る前にご飯作ってほしいな」
「……お前ね」
それがついさっき『調子のってました』って謝ってた人間の台詞か。
「食パンあるから適当に食ってろって」
「作ってくれないの?」
「それくらい自分でしろよ」
むう、と頬を膨らませて、理絵は食パンの袋をごそごそ漁った。
「……薄い」
「すみませんねえ」
おれだって四枚切りに憧れますけどねえ。
「わたしのうちではもっと厚かったよ?」
「んじゃ帰れよ」
「…………やだ……」
あ、おれのアホ。こういう事言えばしょんぼりモードになるっての分かってんのに。
でもまあ、実際問題ずっといられたら困るし。女の泣き顔見たくないってのも本音だけど、さっさと帰ってくれってのも本音だ。
で、おれは逃げ出した。とりあえずはシャワーだ。
「冷蔵庫にマーガリンあるから」
バターなんて良いものはうちには無い。ジャムはあったかもしれないけど、最近使った覚えがない。もしかしたら賞味期限切れてるかもしれない。
つか、うちの冷蔵庫に何があるとか知ってるんだろうけど。ずっとここにいてんだからさ。
いつになったら帰ってくれるんだろねえ……。